最高裁判所第一小法廷 昭和48年(オ)345号 判決 1975年2月27日
主文
理由
上告代理人品田四郎の上告理由について。
原審の認定した事実によると、柴田ちんの死亡後、その生前に同人よりその実弟たる鈴木進(原判決を「柴田進」とあるは「鈴木進」の誤記と認める。)が本件土地を買い受けたことの効力、上告人らがちんの死亡時よりそれほど遠くない時期(昭和四三年四月一四日ごろ)に多くの親族が知らないうちに、同人とした養子縁組の効力などに関して一部の親族から疑惑をもたれ、とくにちんの実子とされている柴田巳喜雄と上告人らとの間に本件土地その他の相続財産の帰属に関して深刻な紛争を生じ、巳喜雄は上告人らを相手方として本件土地につき昭和四三年一一月中に処分禁止の仮処分をなし、さらに昭和四四年四月中に同人の訴提起により上告人らとの間に右紛争に関する養子縁組無効、本件土地等の所有権移転登記手続請求等の各訴訟が係属し、相互に本件土地がその所有に属する旨を主張して譲らず、それらの訴訟上の紛争は昭和四五年初め頃までは続いていたというのであり、右事実の認定は、原判決挙示の証拠に照らし首肯することができる。そして、以上の事実関係のもとにおいては、被上告人は上告人らから昭和四四年七月二三日到達の書面により未払賃料支払の催告を受けても、正当な賃料支払の相手方が誰であるかを確知できず、その支払をすることができなかつたのであるから、右賃料不払につきその責に帰すべき履行遅滞は存しなかつた旨の原審の判断は相当であり、右判断の過程に所論の違法はない。なお、所論は、原判決が催告期間を徒過し賃貸借契約解除の意思表示後にした供託を有効としているのは理由不備、審理不尽である旨主張するが、被上告人にその責に帰すべき履行遅滞は存しなかつた旨の原審の判断が相当であることは前記のとおりであるから、上告人らのした解除の意思表示はその効力を生じなかつたものであり、右の主張もまた理由がない。それゆえ、論旨は採用することができない。
(裁判長裁判官 岸上康夫 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 裁判官 岸 盛一 裁判官 団藤重光)